現実は痛切である。あらゆる甘さが排斥される。
現実は予想できぬ豹変をする。あらゆる平衡は早晩打破せられる。
現実は複雑である。あらゆる早合点は禁物である。現実はその根底において、
常に簡単な法則に従って動いているのである。
達人のみがそれを洞察する。現実はその根底において、
常に調和している。
詩人のみがこれを発見する。現実のほかにどこに真実があるかと問うことなかれ。
真実はやがて現実となるのである。近代物理学は、
未来のことははっきりとはわからないのが本当だという。
そうだとするとわれわれの未来に対する冒険は
いつになってもなくならないと覚悟せねばならぬ。
しかしそこにこそ希望があるわけである。科学は絶えず進歩している。常に明日の飛躍が約束されている。
物理学にとっても今日もまた過渡期でないと、誰が言えるだろうか。物みなの底に一つの法ありと日にけに深く思い入りつゝ
(湯川秀樹)